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東京高等裁判所 昭和53年(行コ)4号 判決 1978年9月28日

控訴人 レブロン株式会社

被控訴人 磐田税務署長

代理人 持本健司 高梨鉄男 ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消し、本件を静岡地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠の関係は、双方代理人において次のとおり付加したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴代理人の主張

(一)  行政事件訴訟法一四条四項は、行政行為の相手方が行政不服審査法に基づく行政不服申立手続によつて行政上の救済を求めている場合に、その行政不服申立手続における結末を待たずに、処分又は裁決を基準として同条一項及び三項の出訴期間を認めて、その期間内の司法上の救済たる出訴を行政行為の相手方に強要したり、あるいはその期間の経過によつて出訴を訴さないとして、処分又は裁決に形式的確定力を生じさせることは明らかに不合理であるため、その行政不服申立手続における不服申立てについての裁決があるまでは、同条一項及び三項の出訴期間は進行せず、「その裁決があつたことを知つた日から三箇月」又は「その裁決の日から一年」を出訴期間としたものである。したがつて、同条四項に定める出訴期間たる三箇月及び一年の期間は、同条一項及び三項に定める出訴期間たる三箇月及び一年の期間と同一のものである。同条一項及び三項の出訴期間の計算については、行政事件訴訟法七条により民事訴訟法の例によることとなり、民事訴訟法一五六条、民法一三八条、一四〇条の規定により、期間の初日は算入しないで計算される。したがつて、行政事件訴訟法一四条四項の出訴期間の計算についても、同条一項及び三項の場合と同じように、期間の初日は算入しないで計算されるべきである。けだし、同条四項について特に期間計算の特例を定める実体的理由はないからである。

(二)  行政事件訴訟法一四条四項の出訴期間の計算について、初日を算入すべきものとすれば、同条一項及び三項の出訴期間と同条四項の出訴期間とは同一の期間でなく、前者の出訴期間が後者の出訴期間よりも一日長い期間を定めていることとなる。しかし、取消訴訟につき、審査請求をして、それに対する裁決を経た行政行為の出訴期間を、審査請求をしない行政行為の出訴期間よりも一日短縮するというように、審査請求及びそれに対する裁決の有無によつて取消訴訟の出訴期間を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し得ない。かえつて、同法一四条及び同条四項が設けられた趣旨からすれば、審査請求をした行政行為についての取消訴訟の出訴期間については、「審査請求に対する裁決」を同条一項及び三項にいう「処分又は裁決」と同一視するというのがその趣旨に沿うものである。したがつて、同条四項に定める出訴期間も、同条一項及び三項に定める出訴期間と同じように、期間の初日を算入しないで計算すべきものである。

二  被控訴代理人の主張

控訴人の主張は争う。

行政事件訴訟法一四条四項においては、同条一項又は三項の文言と異なり、「裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する。」と規定されているところ、法令の用語例によれば、このような場合にはその日を当該期間の初日に算入すべきことを示すものである。したがつて、同条四項の場合においても、審査請求をした者が裁決のあつたことを知つた日又は裁決の日を出訴期間の初日に算入すべきものである。

理由

当裁判所は、控訴人の本件訴えを、出訴期間を徒過した不適法なものとして却下すべきものと判断するのであるが、その理由は次のとおりである。

一  被控訴人が、昭和五〇年二月六日控訴人に対し、控訴人主張の物品税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)をなしたこと、控訴人がこれを不服として、同年四月五日名古屋国税局長に対し異議申立てをしたところ、同国税局長から同年六月三〇日付で異議申立てを棄却する旨の決定を受けたので、更に、これを不服として、同年七月三〇日国税不服審判所長に対し審査請求をしたこと、国税不服審判所長が、昭和五一年一〇月六日付で控訴人の審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

また、<証拠略>によると、国税不服審判所長の昭和五一年一〇月六日付裁決書の謄本(以下「本件裁決書謄本」という。)は、名古屋国税不服審判所長が昭和五二年一月一三日これを書留配達証明郵便により、静岡県袋井市西田一〇〇番地所在の控訴人、代表取締役ロバート・ウエークフイールド・アームストロングにあてて送達に付し、翌一月一四日控訴人に配達された事実を認めることができる。

二  そこで、まず、本件裁決書謄本の効力について判断する。

(一)  一件記録中の控訴人の商業登記簿謄本によると、前記静岡県袋井市西田一〇〇番地は控訴人の本店所在地であつて、控訴人は東京都港区南青山二丁目二番三号に支店(以下「東京支店」という。)を置いている事実を認めることができる。

控訴人は、控訴人の本店所在地には工場があり、製品の製造にかかる業務が処理されるだけであつて、その他一切の業務の決定、遂行は東京支店において統轄されており、東京支店が実質上の本店であるから、東京支店の担当者が本件裁決書謄本を受領した昭和五二年一月一七日に本件裁決書謄本の送達があつたものとみるべきであると主張する。

しかし、<証拠略>によると、控訴人は、国税不服審判所長に対する審査請求事件について、本店所在地を控訴人の住所として表示していた事実を認めることができるのであつて、控訴人が本件裁決書謄本の送達場所として特に東京支店を申出ていたとの事実を認めるに足りる資料はないし、会社の住所は本店の所在地に在るものとされている(商法五四条二項)うえ、控訴人も本件において本店に送達書類の受領権限がなかつたとまで主張するものではないのであるから、たとえ控訴人の主張するように、東京支店が実質上の本店としての機能を有していたとしても、それは控訴人の内部的な業務分掌上の問題であつたにすぎないものとみるのが相当であつて、控訴人の本店において本件裁決書謄本の送達を受けたことの効力を妨げる事由にはならないものである。

したがつて、本件裁決書謄本は昭和五二年一月一四日控訴人に送達されたといえるのであつて、同月一七日に送達されたという控訴人の主張は理由がないから、これを採用しない。

(二)  また、控訴人は、国税不服審判所長に対する審査請求事件について、弁護士三名に審査請求手続の一切を委任し、同弁護士らが控訴人の代理人としてその手続を遂行していたのであるから、本件裁決書謄本は同代理人らに送達されるべきであつたのであり、同代理人らがこれを受領した昭和五二年一月二一日に本件裁決書謄本の送達があつたものとみるべきであると主張する。

ところで、<証拠略>によると、控訴人は、右審査請求事件について、弁護士八木康次、同深沢直之、同落合良子に審査請求手続の一切を委任し、同弁護士らは、控訴人の代理人として、国税不服審判所長に対し審査請求書を作成して提出し、次いで、答弁書に対する反論書を作成して提出するなどして、審査請求手続を遂行した事実を認めることができるけれども、他方、<証拠略>によると、国税庁長官は、不服審査基本通達を制定し、国税通則法一〇一条一項において準用する同法八四条三項の規定による審査請求人に対する裁決書謄本の送達は、当該審査請求が代理人によつてなされているときにおいても、なるべく本人に対してこれを行うものとする、と定めている事実を認めることができ、実務上は、この通達に従つて裁決書謄本の送達が主として審査請求人本人に対して行なわれているものと推認することができる。

そこで考えるに、国税通則法一〇七条一項は、「不服申立人は、弁護士を代理人に選任することができる。」と定め、同条二項は、「代理人は、不服申立人のために、当該不服申立てに関する一切の行為をすることができる。」と定めているのであるから、当該手続における書類の送達は代理人に対して行なわれるのが相当であるということができ、裁決書謄本の送達についても同じようにいえるのであるが、そうであるからといつて、不服申立人(審査請求人)本人に対する送達を妨げるものとはいえないので、控訴人が前記弁護士を代理人に選任して審査請求手続を遂行していたことは、控訴人本人に対する本件裁決書謄本の送達の効力を妨げる事由に当たらないというべきである。

したがつて、本件裁決書謄本が昭和五二年一月二一日に送達されたという控訴人の主張も理由がないから、これを採用しない。

(三)  以上のとおりであるから、本件裁決書謄本は、昭和五二年一月一四日本店所在地の控訴人に送達され、その効力を生じたものと認めることができる。

また、控訴人は、同日本件裁決書謄本を受領したことによつて、審査請求に対する本件裁決があつたことを知つたものというべきである。けだし、本件裁決書謄本が郵便により配達された以上、特段の事情のないかぎり、控訴人は、本件裁決を事実上知り得る状態に至つたものと認めることができるからである。

三  次に、行政事件訴訟法一四条四項の出訴期間の規定について考えてみるに、同条同項を適用して取消訴訟の出訴期間を計算する場合には、裁決があつたことを知つた日又は裁決があつた日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和五一年(行ツ)第九九号、同五二年二月一七日第一小法廷判決、民集三一巻一号五〇頁)。けだし、法令の用語例からして、そのように解釈するのが相当と考えられるからである。

したがつて、これと見解を異にする控訴人の主張はいずれも理由がないから、これを採用しない。

四  そうすると、被控訴人のなした本件各処分の取消しを求める控訴人の本件訴訟の出訴期間は、控訴人が本件裁決のあつたことを知つた日である昭和五二年一月一四日を初日として、進行し、その日から三箇月後の同年四月一三日の経過をもつて、満了したものといえる。

控訴人の本件訴訟が、右の出訴期間を徒過した同年四月一四日に提起されたことは記録上明らかであるから、控訴人の本件訴えは、不適法なものとして、これを却下すべきである。

よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本元夫 長久保武 加藤一隆)

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